認知症の種類として、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症について説明をしてきました。
今回は認知症の4つの種類の中でも一番少ないと言われる前頭側頭型認知症について解説していきたいと思います。
前頭側頭型認知症の症状
前頭側頭型認知症とは
前頭側頭型認知症(ぜんとうそくとうがたにんちしょう)は、介護の現場で働いていても聞いたことがないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
それもそのはず。
前頭側頭型認知症は認知症の中でも約1%程度しかいないと言われているんです。
前頭側頭型認知症は脳の中の前頭葉と側頭葉がなんらかの原因で障害され、様々な症状が出てくる認知症です。
脳の前頭葉(ぜんとうよう)は感情のコントロールや判断力、理性のコントロールに関係があり、側頭葉(そくとうよう)は言葉や物事の理解力に関係があります。
そこに障害が起こるとどうなってしまうのかと言うと、認知症の初期症状にありがちな物忘れよりも、非人道的な行動や言動、人格の変化などが見られます。
ちょっと想像しただけでも怖い話ですが、どのような症状が見られるのか詳しく説明していきたいと思います。
欲求が抑えられない
欲求が抑えられず本能のままに行動してしまうようになります。
相手に対しての礼儀作法もなく、ちょっとした感情の刺激で暴力的になったり、万引きや痴漢など、社会的なルールと言ったものが守れなくなります。
しかも、本人には悪いことをしたと言う罪悪感は無いので店員や警察に注意されたり捕まったりしても反省するどころか逆に興奮してしまうと言った事も起こります。
言語障害・何度も同じ事を言う
知っているはずの言葉が中々出てこなくなったり、文字が読めなくなったりします。
また、意味もなく同じ言葉を繰り返したり、相手が言ったことを何度も繰り返したりします。
同じものを作ったり食べたりする
何日も同じものを作ったり食べたくなったりします。
今日はとんかつ、明日もとんかつ、明後日もとんかつ、さすがに飽きるだろうと思うような食生活を送る方もいらっしゃいます。
感情がわからなくなる
人に共感したり、家族に対する愛情の欠如、感情移入するなどということができなくなります。
もし、これらの症状が自分の家族に出てきたらと想像するだけでとても辛い気持ちになりますし、犯罪なんて起こされた日には正直どう対応して良いのかもわからず途方に暮れてしまいます。
しかも、前頭側頭型認知症は、他の認知症よりも発症時期が若く、男女の差はありませんが40~60代で発症する確率が高いんです。
年齢が比較的若い事もあり、問題行動があっても病院に行くのに納得させるのも一苦労ですし、初期の段階では物忘れなど日常生活には支障が出ていないので、認知症だと気づかないことも多いです。
そして、他の3つの認知症と最も違う所は、前頭側頭型認知症は指定難病に指定されていると言う所です。
前頭側頭型認知症の進行
指定難病に指定されていると言う事だけあって、本人も家族も非常に大変な思いをしてしまう事の多い前頭側頭型認知症ですが、病気はどのように進行していくのか解説していきたいと思います。
1.初期
・ 同じ時間に同じ事をするこだわりが出てくる
・ 暴力的になる
・ 金銭を管理できなくなる
・ 社会のルールが守れなくなる
・ 家族や友人への愛情が低下する
2.中期
・ 毎日同じ物を作り、同じ物を食べ続ける
・ 協調性がなくなる
・ 日付がわからなくなる
・ 落ち着きがなくなり、興奮しやすくなったり衝動的な行動をする
・ 冬に半袖の服を着るなど、季節にあった服を着れなくなる
・ 買い物が出来なくなる
・ 電話やメールが出来なくなる
・ 車の運転が出来なくなる
・ 意欲が低下する
・ 同じ言葉を言い続ける
3.後期
・ 箸やスプーンなどの使い方がわからなくなり一人での食事が困難になる
・ 簡単で単純な行動が目立つようになる(部屋をうろつく、服のシワをなぞる等)
・ 筋力低下
・ 寝たきりになる
前頭側頭型認知症の利用者さんへの介護員の対応の例
正直に言うと、初期から中期の段階だと対応はかなり難しいですし、危険な事が起こる場合もあります。
私は前頭側頭型認知症の利用者さんの対応したのは極々わずかですが、病院への送迎時に車のドアを開けたり、他の利用者さんのおやつや食事を食べたり、暴力行為があったりなど、とにかく苦労した思い出があります。
人員的にかなり厳しかったのですが一瞬たりとも目を離せないので、毎日交代でその利用者さんに介護員が1人専属でつくようにしていました。
前頭側頭型認知症の特性上、「あれもダメ、これもダメ」と言うと反発してくる可能性が高いです。
そのため、担当になった介護員は極力見守りに徹して本当に危ない時だけ手助けするというスタンスにしたところ、思いのほか上手く事が運びました。
さらにそこから同じ時間に同じ事を繰り返す特性を生かして、洗濯を畳んだりなど単純な作業を介護員と一緒にしてもらうとこれもまた見事に的中!
黙々と作業をしてくれるので介護員は助かるし、本人も誰からも注意されたりする事もないせいか、自然と笑顔が見られるようになりました。
もちろん嫌がるときは無理強いしてはいけませんけどね。
この方法はあくまでもその利用者さんだったからうまくいった例なので、他の前頭側頭型認知症の利用者さんに通用するかどうかはわかりません。
ですが、特性を逆に生かしたり、無理強いをしないと言ったことは大事だと思います。
介護の仕事をするなら知っておきたい前頭側頭型認知症の知識のまとめ
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
では最後におさらいもかねて要点をまとめていきたいと思います。
- 前頭側頭型認知症は認知症になった人全部をひっくるめた内の約1%程度しかいない
- 前頭側頭型認知症は脳の中の前頭葉と側頭葉がなんらかの原因で障害され、様々な症状が出てくる認知症
- 前頭側頭型認知症は、他の認知症よりも発症時期が若く、男女の差はないが40~60代に発症する確率が高い
- 他の3つのタイプの認知症と違い、前頭側頭型認知症は指定難病に指定されている
- 前頭側頭型認知症の利用者さんの対応は、前頭側頭型認知症の特性を逆に生かしたり、無理強いをしないと言ったことは大事
いかがだったでしょうか。
一言に認知症と言っても、このように初期の段階では日常生活に支障が出ない認知症もあります。
4つの認知症の特徴を全て覚えるのは中々大変ですが、介護の現場では、技術だけでなく知識もしっかりと身につけて一人ひとりの利用者さんに合う対応ができるようになることが大切ではないでしょうか。
参考:介護職員初任者研修教材
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